不可思議な「わたし」を巡る
対話が取り戻す「物語としてのアイデンティティ」-リロケーションダメージへの関わり (4/4)
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暮らしの中にある豊かな知恵

「埋もれている」ものとして、まさに住環境との関わりが大きな意味を持っているのですね。暮らす場所とその人のあいだには、意識化されないものの、独特の知見が培われているように思います。

山内泰

これは前任校(沖縄県立看護大学)の取り組みの紹介ですが、例えば、沖縄では3,000人以下の島が30余あります。島には診療所がなかったり、島の不利性は専門職が少ないとか、遠くて船じゃないと渡れないとか、狭いとか海に囲まれているとか。不利性があるのだけど、その中で生活している人たちの有利性がある。不利な条件の中で暮らしてきた人々の知恵があって、自分たちで病気にならないよう薬草を使ったり、健康に生活するために活動をしたり、横のつながりがある。島で暮らす人々はどのような経験や体験を得て、どういう知恵を生活に取り入れているんだろうか。そうした問いを前提にして関わることができると思います。

赤星成子

私たちが課題ととらえていることでも、当事者は課題と思っていないこともあり、リロケーションの中の課題の捉え方にも共通するものがあると思います。時間をかけて培われた生活の知恵、助け合う人との関係、環境・場所もその人のアイデンティティとつながっている。見えているものだけでなく見えないもの、、関係性の中で創出されるものにアクセスする視点に目を向けたいと思います。

赤星成子

暮らしの場で培われた様々な知恵がリロケーションで失われてしまう状況に対してどうするか。赤星さんのお話では、「対話」を通して、その人の埋もれている物語が思い起こされ、その人の「パターン」が拓かれていくことで、アイデンティティが取り戻されていくのですね。高齢者のみならず、ひろく人間理解や人との関わりにおいても豊かな示唆をいただいたお話でした。ありがとうございます。

山内泰

(2022年2月1日オンラインにて収録。)

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