情動のインターフェースと体験の「きっかけ」をサポートする技術
やわらかい技術と現実/Reality=∑Subjective+Entity
ウェアラブルコンピューターや兵庫県の城崎温泉での人流計測など、人を中心とした等身大の情報技術を探究してきた上岡さんは「やわらかい技術」を提唱します。それは、いかに技術が日常生活の中に自然に、気軽に、身近に位置づくか、を問うものです。
これはまた、「人間が現実をいかに構成しているか?」という問いでもあります。その点を上岡さんは「現実とは主観の集合と実体である」と捉えます。この問題意識から、現実=事実に関わる技術を、「客観的な記録や情報を高精度で伝達するもの」としてではなく、「主観的な体験や情動が生まれるきっかけに働きかけるもの」として捉え返すのです。
情動インターフェースとしての触覚:触覚を通した空間体験
こうした〈きっかけ〉として、上岡さんは、情動のインターフェースとして触覚というディスプレイに着目します。ここでも「いかにリアル触覚を再現するか?」ではなく「触覚を通していかに情動を生成するのか?」という問いが探究されています。
この独特の発想は、上岡さんの「ココソコ」というサービスに結実しています。これは、コロナ禍以降一般化した画面を通したコミュニケーションで「指示語」が使えないことに着目し、画面上で空間を指示できるサービスです。
空間体験を主観の側から捉えなおすと、視覚だけでなく触覚を含む様々な感覚を伴っていて、とくに自らの働きかけ(空間参与)を通して体験が生まれている。そのためココソコの「指差し」という働きかけを通して、独特の空間体験が生まれるといいます。更に画像として接すると日常では意識しづらい点に気づくことが多く、これは写真をはじめ視覚メディア体験の特徴です。こうした意識と無意識、主観と客観の織り交ざる体験が、ココソコでは生まれると上岡さんはいいます。
技術に入り込む人間観
体験を生成するきっかけをサポートする技術。もっともその技術は人をコントロールするものにもなりかねません。その点上岡さんは、技術のフラットさと人間のモラルは別の問題としたうえで、それでも設計者の人間観が技術設計に入り込むことを指摘します。技術が人間に寄り添うものであるか否かも、それを設計する人の人間観によるところが多いのかもしれません。