テクノロジック・リフレーミング

vol.1 「ウェル・ビーイング」から「ビーイング・ウェル」へ

古賀徹

九州大学教授、哲学、デザイン思想
近代社会の諸問題を哲学的に考察する一方で、デザインの基礎論にも取り組む。

山内泰

一般社団法人大牟田未来共創センター理事
ドネルモ代表理事
株式会社ふくしごと取締役
東京大学先端科学技術研究センター特任研究員

「ウェル・ビーイング」から「ビーイング・ウェル」へ

技術と人間の関係を考えるとき、NTT研究所内でも「ウェルビーイング」は重要なキーワードとなっています。それは単純な技術ドリブンではなく、人間を中心としたサービスを構想する「ヒューマンセンタードデザイン」の軸となるものでしょう。

「理想の人間像」はいろいろあった!

では、サービスデザインの中心にある「人間」とはどんなものでしょう?実は、その答えは自明ではなく、歴史的な文脈があると古賀さんは言います。古代ギリシャの「花開く人間」、近代の「支配者としての人間」、現代(20世紀)の「機能としての人間」といった人間観の変遷をたどりながら、各時代において「理想的な人間像」が想定されてきたことを古賀さんは指摘します。

理想を目指すことは「幸せ」なのか?

もちろん、今日の私たちが「人間」という場合にも、そこには「理想的な人間像」が前提されていると古賀さんは言います。それは、安全・安心な環境のなか、楽しく独創的で、適度に苦労しながら、それなりに不自由なく暮らす人間の姿です。

そんな人間は「幸せ」そうに見えます。でも、果たして本当にそうか?と古賀さんは問いかけます。というのも、そこで私たちは、環境・技術・サービスが想定する「幸せ」を理想として、そこに至らない自分を適応させるかたちをとらざるを得ないからです。

このように、人間存在に先立つ理想に対し自らを低く位置づけるありかたでは、どこまでいっても不幸だと古賀さんは指摘します。この問題意識から、「ウェルビーイング」もまた、ビーイング(存在)に先立ってウェル(幸せ)が想定されているのではないか、と古賀さんは問うのです。

「ビーイング・ウェル」を目指す「問いとしてのデザイン」

この問いが示唆するのは、ビーイングを起点にそれぞれのウェルを目指す技術・サービスのありかたです。同時に、そこで求められる方向性に対して「本当にそれでよいのか?」と問いかける技術である必要もある。ウェルビーイングからビーイング・ウェルへの転換、そして「問いとしてのデザイン」。これらを要件として、ヒューマンセンタードという理念もまた、はじめて「人間」を中心としたサービスデザインが可能となるでしょう。

古賀徹

九州大学教授、哲学、デザイン思想
近代社会の諸問題を哲学的に考察する一方で、デザインの基礎論にも取り組む。

山内泰

一般社団法人大牟田未来共創センター理事
ドネルモ代表理事
株式会社ふくしごと取締役
東京大学先端科学技術研究センター特任研究員